岡田先生の安全に走ろう講座
- 監修:岡田 邦夫(オカダ クニオ)
- 大阪マラソン医事・救護専門部会委員長
公益財団法人日本体育協会公認スポーツドクター
公益財団法人日本陸上競技連盟医事委員会委員
マラソンで起こるケガや病気
健康な人も要注意の突然死
スポーツは健康・体力づくりに役立ちますが、スポーツが原因で、ケガや病気、ときには生命に関わるような重大な疾患が生じることがあります。その最たるものは突然死です。突然死とは、予期されなかった内的要因(病気)による死亡で、通常、発症から24時間以内に亡くなったケースを指します。わが国では年間に約10万人が突然死で亡くなり、そのうちスポーツが関係していると考えられるケースも少なくありません。ランニングはスポーツの中で突然死の発生件数が多い種目のひとつです。
突然死の原因で最も多いのは心疾患で、半数近くは持病や既往歴のない人たちです。マラソンなどのスポーツで心臓に異常が生じるのは、運動ストレスによる交感神経の緊張に血圧異常や脱水、動脈硬化などの種々の要因が複合的に関連した結果と考えられています。
脱水症状とハンガーノック
マラソンで最も注意しなければならないのは脱水症状です。特に暑い季節は、熱中症を引き起こす原因になるので気を付けなければなりません。運動時に脱水症状が起きやすいのは、上昇した体温を調節するために発汗することによって体内の水分が大量に失われるからです。血管内の水分が減少し、体内を循環する血液量が減少することで血圧が低下し、その結果、疲労感や立ちくらみ、失神などの症状が起きます。また、発汗で電解質(塩分)が失われることによって筋肉がけいれん(熱けいれん)を起こしやすくなります。
マラソンレース中は水分不足だけでなくエネルギー不足も心配しなければなりません。レース中にエネルギー切れが起こると、血糖値が極端に下がることによって身体が動かなくなったり、思考力がにぶくなったりする「ハンガーノック」という症状になることがあります。脱水症状は気温が15度以上になると発症しやすくなるのに対して、ハンガーノックは、体温維持に大量のエネルギーを消費する寒い時期に起きやすいのが特徴です。
寒い季節のレースでは低体温症にも注意が必要です。特にレース後半、走るペースが遅くなり運動で発生する熱量よりも外気温に奪われる熱量のほうが大きくなると、身体の深部体温が下がり、体の機能が低下します。向かい風が強いときや雨や雪でウェアが濡れてしまったときも低体温症を起こしやすくなるので要注意です。
各部の痛み
長丁場のマラソンを走っていると、様々な痛みが出てくることがあります。特に多いのは膝、足首、かかとなどの脚の痛みです。膝の痛みは主に脚の筋力不足が原因で発生します。地面に着地するとき、脚は大きな衝撃を受けますが、脚の筋肉がある程度発達していないと、その衝撃を上手に受け止めることができません。ランニングフォームの崩れも痛みを引き起こします。
患部は小さくても走りに大きな影響を及ぼすのがマメです。マメは足の皮膚とシューズとがこすれあう摩擦熱によって生じるやけどの一種です。皮膚が赤くなるのが初期段階で、症状が進めば皮膚の下に液体がたまって水泡ができ、その後水泡が破れます。マメができると、マメのできていない側の脚に重心をかけるなどフォームが乱れやすくなり、結果的に膝や足首への負担が大きくなり、思わぬ故障を引き起こすおそれがあります。